CRE講座

2009/12/1 UP

【特別セミナー】「のれん」の会計処理と経営・財務への影響

1.はじめに

企業会計基準委員会から公表された「企業結合に関する会計基準」(以下、「企業結合会計基準」)により、貸借対照表に多額の「のれん」が計上される場面が増え、それが償却の対象になったり、減損の対象になったり、財務面に大きな影響を与える場面がよく見られる。企業結合会計基準の適用により、企業の買収に伴って「のれん」が計上され、それがその後の買収企業の業績に大きな影響を与えることから、投資家としても「のれん」を理解する必要が生じたし、企業の経営者や財務担当者としても、「のれん」の経営・財務面に与える影響を見極める必要が生じたといえる。

本稿では、「のれん」の会計処理の経営・財務面に与える影響と、特に不動産の運用戦略との関係にも焦点を当てて、解説するものとする。なお、本稿の意見にわたる部分は、筆者の私見であることをお断りしておきたい。

2.のれんの意味

(1)買収における企業または事業の取得原価とは

のれんの意味を考えるに際して、企業や事業の買収を行うときの、その被取得企業または取得する事業の取得原価がどのように決まるのかを理解しておく必要がある。

企業結合会計基準によれば、「被取得企業または取得した事業の取得原価は、原則として、取得の対価(支払対価)となる財の企業結合日における時価で算定する。支払対価が現金以外の資産の引渡し、負債の引受けまたは株式の交付の場合には、支払対価となる財の時価と被取得企業または取得した事業の時価のうち、より高い信頼性をもって測定可能な時価で算定する。」と定められている(企業会計基準23項)。

要するに、企業や事業を買収するときに、買収企業は買収の対価を支払う。対価は、株式のケースもあれば現金のケースもある。通常の合併の場合は、存続会社が消滅会社を取り込むに際して、存続会社株式を消滅会社の株主に対して(合併対価として)交付する。存続会社が上場企業の場合は、存続会社株式には市場価格があるため、その時価を高い信頼性をもって測定できる。先に示されているように、企業結合日(合併の場合は、合併の日)における時価で算定する。

(2)のれんの意味とのれんの発生の仕組み

取得原価が、受け入れた資産および引き受けた負債に配分された純額を上回る場合には、その超過額はのれんとして処理すると定められている(企業会計基準31項)。

「取得原価」とは、買収の対価と言い換えることができる。合併であれば、消滅会社をいくらの企業価値で取り込むのかということである。一方、「受け入れた資産および引き受けた負債に配分された純額」とは、被買収企業の時価純資産額である。取得原価(=買収対価)は被買収企業の時価純資産額と等しくはない。被買収企業に強固な販売ルートがあるとか、ブランドが確立しているとか、目に見えない無形の価値があるとしたら、買収対価はそれだけ大きくなり、時価純資産額を上回ることになる。逆に、被買収企業の事業の効率が悪く、遊休資産を多く抱えているような場合で、買収後においてリストラの費用が多額に発生することが当初から想定されているような場合は、買収対価が小さくなり、時価純資産額を下回るケースもある。

時価純資産額は、その企業の清算価値であり、事業をその時点で廃止して、すべての資産を現金化し、負債を弁済し終わった後に残る価額である。ところが、買収した後に直ちに被買収企業を清算することはなく、買収後においても事業を継続していく。したがって、買収対価は、清算価値ではなくその企業(または事業)の継続価値になる。その企業(または事業)の継続価値を評価するうえでは、時価純資産額も評価要素の1つに過ぎず、そのほか事業の効率性、仕入先ルート、販売ルート、営業上の秘訣、ブランド、信用などの様々な無形の価値も評価要素として織り込むことになる。

次に、合併を例として説明する。合併の場合、対価として交付される存続会社株式の時価の総額(=合併対価)が、消滅会社から受け入れる資産および負債の純額(時価純資産額)を超える場合の超過額が「のれん」である。存続会社の側で計上され、20年以内のその効果の及ぶ期間にわたって、定額法その他の合理的な方法により規則的に償却する(企業会計基準32項)。

図のれんの発生の仕組み

(3)具体例

のれんの発生の仕組みを具体例で説明する。合併における消滅会社乙社の貸借対照表が次のとおりであったとする。かっこ書きは時価の金額であり、乙社の簿価純資産は120であるが、資産に含み益が50あるため、時価純資産は170(250-80)であるとする。

乙社貸借対照表

存続会社甲社は、消滅会社乙社の収益性、成長性、事業の効率性などを総合的に勘案して、企業価値を評価したところ、時価純資産額(170)よりも大きい金額である買収対価(=合併対価)240で乙社を吸収合併するものとした。

この合併対価は、乙社が株主に対して合併対価として交付する存続会社株式の1株当たりの時価×交付する株式数である。したがって、交付する株式数は合併比率で決まる。この合併比率は甲社と乙社の企業価値の比率で決まる※1。合併の当事会社の企業価値の比率については、時価純資産額だけでなく、その企業の収益性・成長性、仕入先・販売先ルートや営業上の秘訣、ブランドなどの目に見えない価値(無形の価値)も勘案されて決定されるが、上場企業同士の合併の場合は、株価の比率も重要な要素になる。それは、株価は企業価値を相応に反映していると考えられるからである。

合併比率が決まることにより、合併対価(買収対価)は、存続会社である甲社株式1株当たりの時価×(合併比率により決まる)発行株式数となる。

企業結合会計基準においては、親子会社間の合併や子会社同士の合併のような共通の支配下における資産・負債の移転を「共通支配下取引」というが、それ以外の一方の当事者が新たな支配を獲得するような合併のように実態が買収である場合は、「パーチェス法」という会計処理が適用される。 「パーチェス法」においては、次のように、買収側(通常は、存続会社)が資産および負債を時価で受け入れる処理を行う。

のれん発生の仕組み

交付する財産(ここでは株式)の時価が受け入れる時価純資産を上回る場合は、上記のように資産(借方)にのれんが計上される。資産に計上されたのれんは、20年以内の投資の効果の及ぶ年数にわたって、規則的に償却していくことになる。借方のれんの償却であるため、償却額は毎期費用に計上される。したがって、企業価値を過大評価して買収し、その後の買収の効果が期待どおりに発揮されない場合は、のれんの償却負担が翌期以降に重くのしかかっていくことになる。また、買収が明らかに失敗した場合には、減損会計の適用によりのれんの減損が発生する場合もある。

要するに、買収の成否が翌期以降の財務面に表れるという見方が成り立ち、投資家は買収とその後ののれんの影響とを関連づけて決算書を分析することも必要である。また、経営者としても、買収に当たっての企業価値の評価を誤ると、その後の業績の悪化により経営責任を問われる場面も考えられる。

※1:合併比率とは、消滅会社である乙社の株主が有する乙社株式1株に対して、甲社株式を何株交付するかという比率であり、それは甲社の企業価値と乙社の企業価値の比率により公正に(合理的に)定められるべきものである。その比率が公正でないと、株主総会の承認決議が得られない可能性も生じうる。

top
  • CRE講座 TOPへ
  • 目次に戻る
  • バックナンバー

法人のお客様へ 都市開発・不動産ソリューション・資産運用 トップ

CRE戦略支援についてのお問い合わせはこちら

  • 都市開発
  • オフィスビルのご案内
  • 開発プロジェクトのご紹介
  • 企画・開発/監理
  • 施工(建設工事・ビルリニューアル工事)
  • プロパティマネジメント
  • 不動産再生
  • 不動産ソリューション
  • CRE(企業不動産)戦略支援
  • CRE戦略とは
  • CRE戦略の必要性
  • CREマネジメントサイクル
  • M&A時代におけるCRE戦略
  • サービスのご案内
  • 戦略立案コンサルティング
  • CREXα(クレックスアルファ)
  • 賃貸等不動産コンサルティング
  • プロジェクトマネジメント
  • CRE SOLUTION Report
  • CRE最前線!
  • CRE講座
  • CRE SOLUTION Report不動産情報誌発行のご案内
  • 事例のご紹介
  • 遊休地の売却依頼に、操業中の工場売却を提案
  • 不動産価値を適正に把握することで、店舗賃料を削減
  • 遊休地に取引先の拠点を建設
  • 経営資源の観点から、不動産情報を一元管理
  • 旧本社跡地を高齢者向け賃貸住宅として再生
  • 査済証のない旧耐震建物を助成金対象へ
  • 不動産鑑定
  • 不動産仲介
  • 不動産証券化
  • 資産運用
  • 資産運用
  • 安心・安全への取り組み
  • 日土地のCRE戦略支援
  • CRE SOLUTION Report